■すっかり遅くなったが続きである。
■天城縦走の日程を一日延ばして最終日の朝。すっかり雨も上がって、気持ちのいい山の朝の空気。朝食を7時からにしてもらっていたので、のんびりとはいかなかったが、軽く朝風呂とたくさんの花が咲く素晴らしい中庭を楽しんだ。白壁荘は本当に居心地がいい。また機会を作って、のんびり過ごしに来たい。

■いかにもやり手風な女将に見送られながら、前日に頼んでおいた送迎タクシーに乗り、旧天城トンネルについたのは朝8時。天城高原ゴルフ場から出る伊東行きの最終バスは17時10分なので、縦走の持ち時間はおよそ9時間。登山装備以外に旅行用の荷物も全部担いでるので、荷物の重量で足が遅くなったりまた途中でのんびり過ごしても、それだけあれば何とかなるだろうとの目論み。それにしても、この旧天城トンネルに立つのはいったい何年ぶりだろうか。たくさんの思い出を抱きつつ、トンネル脇の登山道からアプローチに入る。

■最初に一気に天城峠まで登り上げ、そこから尾根に沿って八丁池へと続く道をゆく。昨晩たくさん雨が降った割に空気はひんやりと乾いていて、天気もよく、とても気持ちいい登山日和だった。体調はすこぶるよかったが、やはり荷物が重めのためか前半の足取りは思ったよりも重かった。しかし天城峠の周辺は杉がほとんど見られないこともあって、とても明るく風情があり、歩いていて実に飽きない、美しい森だった。途中、マメザクラがところどころに寄り集まって咲いていたが、しばらくすると、おびただしい数のアセビがふいに現れた。そしてこの日は、そこからずっとアセビ祭りが続くことになる。アセビという植物は知らなかったが、先日完歩できずに痛い目にあった秩父七峰縦走の時に、途中で花先生の彼女から「馬が酔う花」として教えてもらっていたのだった。なるほど。今回ここに呼んでくれたのは、このアセビたちだったのかも。


■アセビの大集団は見事というほかはなく、まるで、山に巨大なカリフラワーが生えているようだった。こんな風景は見たことがない。これでは馬酔い放題だ。トイレ休憩後に見晴し台へ登ってみると、うっすらとした富士山を背景に八丁池が一望できた。ずっと樹林帯なので、山域の全体が見渡せるのはありがたい。登山者はずっと少なかったのだが、ここから学校のハイキングの子供たちや家族連れなど、たくさんの人々とすれ違った。

■11:00前。八丁池到着。予定より少し遅めくらい。静かでよく整備されており、ハイキングするにはとてもいい場所だった。よく目を凝らすと池の中には魚たちが見えた。ぽかぽかとあたたかい陽気で、かいた汗がよく乾いた。おやつを食べて、しばしひなたぼっこしながら休憩。

■八丁池からは万三郎岳に至る道をテクテクとゆく。森の木々が変化し、ブナヒメシャラがいよいよ増えてきた。登山道は歩きやすく、最近立てられたような真新しい道標と看板が導いてくれた。ときおりアセビのトンネル。

■小岳に至る急登を登り上げ、再び汗をたくさんかく頃には、また道がなだらかになる。ようやく縦走らしくなってきた。木はたくさん生い茂っているが葉がついていないため、道はやたら明るく日差しが強い。そろそろ小岳が近いかと思うあたりで、この登山道では有名なヘビブナと出会うことができた。まるで何かの意思が宿っているかのような姿。曲がった先から伸びた木の幹がカミナリのよう。いったいどういう経緯でこんな風に育っていったのだろうか。小岳をすぎてからのブナの原生林も美しかった。秋の紅葉の時季も来てみたいものである。

■片瀬峠から目指す万三郎岳が見えた。ここから天城縦走路も後半となり、いよいよアップダウンが多くなる。やや疲れ気味ではあったが、足はよく前に出て、特に心配することもなかった。一気に高度が上がってきたので、眺めもよくなってきて力がわいてくる。

■13:45。標高1406m万三郎岳山頂。写真を撮り忘れたが、大勢の人々でにぎわっていた。さすが伊豆半島最高峰。展望があまりない場所だったが、少しずれたところからは広大な伊豆の森の景色が見えて気持ちよかった。遠くの方に風力発電の巨大な風車群。しかしまったく動いておらず。前日にかなり強かった風は、今日はほとんど吹いていなかった。標高も上がったので日差しも強い。

■万三郎岳の山頂でしばらく休憩の後、馬の背方面へ。さすがにアマギシャクナゲは咲いているはずもないが、かわりに再びアセビ祭りとなる。ゴルフ場から来ている人が多いのか、急に人が少なくなった。石楠立(はなだて)を経て、軽い岩場を登り上げると「アセビのトンネル」にたどり着いた。しかし実際のところはトンネルというよりも、登山道の洗掘が進んで掘り下げられてしまい、結果として「トンネル」になってしまったものだった。でもそれでも木漏れ日の膨大な光の模様はとても美しく、気持ちよくその中を進んだ。

■15:00。馬の背。開けた場所から最後の万二郎岳が見えた。地形図で見て考えていた以上にしっかりアップダウンがあって、上り下り甲斐のある縦走路である。タクシーの運ちゃんはマメザクラはもう終わったと言っていたが、稜線の登山道には開きかけのつぼみがたくさんあった。やはり今年の花時計は少し遅めのようだ。万二郎岳への登り上げる途中で振り返ると、今日歩いてきた道の大半が見えた。17キロ程度といっても、見渡すと結構歩いてきた感がある。これも縦走の醍醐味。

■15:20。標高1299m万二郎岳山頂。昔の看板では1320mとなっていた(笑)。出発から約7時間。最終バスまではおよそ2時間あったので、下りの帰りは余裕を持って降りられる見込みだったが、やはり天城峠側からの方が時間がかかるようだ。疲れてはいたが、かいた汗がとても気持ちよかった。時間も時間なので山頂には人はほとんどおらず、ゆっくりと休憩。やっぱり、山は静かな方がいい。たとえ単独で心細くても。

■下山開始。帰り道は、そこかしこにタチツボスミレとマメザクラ。しかし、こちら側はやはり人がたくさん登るようで、洗掘がひどく、アプローチした天城峠から比べるとやや荒れているような雰囲気だった。「植生保護のため、コースを守ろう」という四ヵ国語で書かれた真新しい看板もあちこちにあった。観光で大勢の人でにぎわうことは山にとっては常に痛し痒し。

■下り続けること1時間。16:30。天城高原ゴルフ場到着。ここで最後にまたアセビとヤマザクラが仲良く出迎えてくれた。花自体の数は少なめだったけれど、でも、伊豆の春の終わりの登山だったのだろう。休憩込みで行動時間は8時間30分。荷物も重めでくたびれたが、気持ちも夕方の陽気のように清々しかった。天城山脈はまだまだ懐が深そうな気がする。東京からも比較的近く、季節を変えながら何度かまた登りに来たいと思った。

■予定通り17:10発のバスで伊東へ向かい、街中の弁天の湯で一風呂浴びて、東京へ帰った。